所の法に矢は立たぬ

足を早める
 足を早める。別の一人が、また、追ひつき、
「まあ、まあ、待ちな、伊賀倉さん、そんならどうすればいいんだね?」
「怪しげな建築請負に、工事一切を委せる契約をまづ取り消すのさ」
「だが、それは、伊賀倉さん……やはり、県会の有力者から推薦があつて……」
「その有力者を、引つこませなさい」
 また、もう一人が、頭に手をのせ、
「そんなことをしたら、結果は、えらいことになるで……」
「かまはん、かまはん。村民がよろこべば、それでいい。わしは、ちよつと、急ぐから……お先へ……」



 あとに残された三人は、顔を集め、
「あの先代も頑固爺だつたが、せがれは、また、それに輪をかけたつむじ曲りだ」
「強いことが言へるのは、実力のある証拠さ」
「税金を、村中総がかりでもかなはんほど納めるやつにかゝつちや、誰だつて歯は立たん」



 村役場の村長のデスクの前へ、つかつかと近づいて行く男は、伊賀倉である。
「おはやう、村長さん」
「よう、これは、これは、伊賀倉さん、わざわざこんなところへ……なんの御用です?」
「自分の村の役場だから、いろいろ用があります。今日は、村長さんに、ひとつ、相談があるんだが……」
「この、わしに……はて、なんだらう? あ、公会堂のことで、村会の衆がお宅へ行つた筈だが……」 作業服 作業着 専門店