所の法に矢は立たぬ

毎年のことながら
 毎年のことながら、春から夏、秋と昔からいう年魚の季節となる。
 わたしの舌は、あゆを世間で騒ぐほどうまいものだとは思っていないが、なんとなし高貴な魅力があってうれしいものだ。川魚のうちではあゆが有数の美味であること、それに優美な姿であることにもちろん異存はない。なんといっても四月から当分の間、あゆが王座を占める一つの理由は、この季節には、これに匹敵するような気の利いたうまい魚が他にないからであろう。川魚にして生臭くないということも、あゆをして今日の高名をなさしめた第二の理由であろう。あゆの香気なども、今さらいうだけかえってヤボなことであるが、やはり、この点も大いにあずかって力があろう。
 あゆにかぎらず、美味の名を取った食べ物について、案外世人がその良否をわきまえず、従ってその本格的な食い方なども心得ていないという場合が多いように思われる。それも美味美食ということにさほど興味や関心を持たぬひとであるなら、とやかくいう筋合ではないが、美食家とか食通とかいわれて、著書など世間に堂々と発表しているひとびとに、それが往々あるのだから、まったく心細い次第だ。
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